ワーク・エンゲイジメントを高めるには

ポジティブな気持ちで働く

最近、よく目にする「ワーク・エンゲイジメント」。
なんとなくわかったようなわからないような・・・。
実際にワーク・エンゲイジメントを高めるには何をすればいいのでしょうか?
定義と具体的な方法について解説します。

ワーク・エンゲイジメントとは仕事にポジティブな状態で取り組むこと

ワーク・エンゲイジメントとは、仕事や組織に対して長期的にポジティブで充実した心理状態で取り組むことをいいます。
「状態」を指すのです。
ですから、ワーク・エンゲイジメントを高めるには人の心理状態を変える施策が必要なのです。
このエンゲイジメント度が高い人は、自分自身の成績が良いだけでなく組織も業績が高い、更に離職率が低い、言動が自発的である、オンとオフを上手にコントロールできるというデータが出ており注目を集めています。

エンゲイジメントを提唱したのは、オランダのウィルマ―・B・シャウフェリ博士です。
この方はもともと「バーンアウト(燃え尽き症候群)」の研究をされていたのですが、それだけでは働く人たちの幸せ(well-beingという表現が該当します。happyとは使い分けされています。)に貢献できないと考え、働く人のポジティブな側面についての研究を始めたそうです。
1980年代にアメリカの心理学者の間でも同様の考え方がでていて、ポジティブ心理学会が設立されています。
この頃から欧米では人のネガティブな側面よりもポジティブな側面の研究が盛んになります。
レジリエンスやマインドフルネスなどが出てきたのもこの流れを受けています。

日本では2017年5月に日経新聞にアメリカのギャロップ社の調査結果が掲載されてから、一気に広まりました。
この時のギャロップ社の調査は、日本ではエンゲイジメント度の高い社員は全体の6%。
調査対象139か国中、日本は132位でした。
他にもエンゲイジメントに関する調査はあるのですが、ほとんどにおいて他の国に比べて日本の順位はかなり低いという結果がでています。
(エーオン・ヒューイット社、ウィリス・タワーズワトソン社などが調査を実施しています。)

※当初シンプルに「エンゲイジメント」と言われていましたが、最近では言葉の浸透と共に使われ方が少し変わってきていています。
「地域の活動にエンゲイジするつもりだ」
「部活動にエンゲイジしているんだね」などと、仕事以外の場面でも使われることが増えています。
それに伴い、仕事における状態のことは「ワーク・エンゲイジメント」と表現されるようになってきています。

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ワーク・エンゲイジメントの課題:評価方法が定まっていない

ワーク・エンゲイジメントは「仕事に対してポジティブな心理状態」で、
エンゲイジメント度が高い人・組織は、業績が良い・離職が少ないなどメリットがたくさんあると書きました。
では、その状態を誰がどうやって評価するのでしょうか?
ここが大きな問題です。
エンゲイジメントを提唱したシャウフェリ博士は「活力・熱意・(仕事への)没頭」の3つの側面から構成され、JD-Rというモデルに基づいた調査票を提供しています。
一方でギャラップ社は「仕事に対する誇り・思い入れ・情熱」、ウィリス・タワーズワトソン社は「従業員が企業の成功に貢献するための意欲と能力」、アトラエ社は「職務・自己成長・健康・支援・人間関係・承認・理念戦略・組織風土・環境」を要素として取り上げています。
当然それぞれの要素に基づいた調査ツールが開発されています。

ワーク・エンゲイジメントが仕事にポジティブで充実した心理状態で取り組むこと、は統一の見解なのですが、
現状では評価項目が統一されていません。
このことは日本におけるワーク・エンゲイジメント推進の現状を把握する上でとても重要なことです。
つまり、自社でエンゲイジメント向上の取り組みをする際にはどのツールを導入するかをよく考える必要があるということです。
極論に思われるかもしれませんが、自社でエンゲイジメントを定義してもかまわないのです。
私は後者をおすすめします。
いい機会なので社員全員で「どんな時に充実感を持って仕事をしたか」を話し合ってみると、意外な発見があるはずです。
エンゲイジメントは欧米から入ってきた考えなので、そのまま翻訳しても日本人にはなじみにくいものもあります。
トヨタ式カイゼンでも何でもそうなのですが、人が違う・文化が違う・資源が違うことをよく考慮して自社が取り組みやすい方法にカスタマイズをすることが必要です。

それから、現在ワーク・エンゲイジメントに関するビジネス書がいくつか出版されています。
もちろん私も読みました。
どれもエンゲイジメントについてわかりやすく解説をしてくれていて、データも豊富に掲載されていると思います。
しかし、実際にエンゲイジメントを高めようとした際に参考になる情報は少ないように感じています。
具体的な手段について書かれた書籍が出てくるのはこれからかもしれません。

とは言っても、エンゲイジメントがそんなに人材と組織の育成、離職防止に効果的なら実践の方法を知りたい、今すぐ知りたいと思うのが人の心です。
シャウフェリ博士の「ワーク・エンゲイジメント入門」を読んだ時、私はこう思いました。
「なんだ、全部クライアントさんの所で一緒に実践してきたことばかりじゃないか。」
もちろん成果があったことばかりです。
ですので、その内容を次にまとめます。

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個人への働きかけ

ワーク・エンゲイジメントを高めるには、個人レべルでできることと組織レベルで実践すべきことの2つがあります。
まず個人レベルで何をすべきかをまとめます。

レジリエンスを高めること

レジリエンスとは、ストレスに負けない・折れない心と理解されることが多いのですが、「変化に柔軟に対応する考え方」ととらえる方がより的確です。良いレジリエンス・トレーニングは、ネガティブな経験をどう受け止め、何を学び、学んだことをどう活かすのかということを学べるようデザインされています。もちろん自分だけでなく他者のレジリエンスを高める方法も含まれていますし、そのプロセスでアサーティブネスにも触れます。
社内でそのようなトレーニングをしてもいいし、難しければ外部のトレーナーを活用してください。

※レジリエンス・トレーニングにご関心がある方はこちらをご覧ください。 レジリエンス・トレーニングについて

仕事に対する価値観に気づくこと

この仕事に対する価値観は「モチベーション」と密接に関係しています。
日本人だからみんな似たような価値観を持っているなどという考えは妄想・ファンタジーで、実に人それぞれ多様です。
この「多様」という概念は人材育成において、非常に重要です。
どんな風に多様なのか、
どうやって単一民族でも多様性が生まれるのか、
価値観とモチベーションの関係を解説したいところですが、ワーク・エンゲイジメントの話を進めたいのでまた場を改めて書きます。

さて、モベーションを刺激するにはその源となっている価値観を見つけ、その価値観を満たすような職務を与える、
あるいは職務の中にその価値観をつくりだすということが効果があります。
自分でその価値観を満たすような行動ができるようになったら、後は手放しでもどんどん成長していってくれます。
怖いくらい自分でいろんなことを工夫し始めます。
では、社員がどんな価値観を持っているか見つけるにはどうしたらいいでしょうか?
いきなりどんな価値観を持っているか?と尋ねてもたいていはびっくりされますので、こんな質問から始めてください。

「仕事をしていてどんな時に楽しいと思う?」
「今まで充実した気持ちになったのはどんな時?」
「社会人になってよかったと思ったのはどんな時?」

代表的な質問をあげましたが、相手と状況によって質問の内容は変えてください。
「質問の技術」に自信がない方は、まずそちらを鍛えてくださいね。

多様性に気づき、受け止めること

組織というのは、いろんなタイプの人がいて初めて成り立つことを普段から話し合います。
何のためかというと、働きやすい・協力しやすい人間関係をつくるためです。
多くの人は「多様性」というものを意識せずに育ち、社会人になっています。
(私もそうでした。)
家庭や学校で経験した人間関係やリーダーシップを頼りに、職場で起きていることを理解しようとして受け止めきれない。
職場の上司・同僚・先輩・後輩は、家族でもないし友達でもありません。
「組織の目的を実現するための仲間」なのです。
そこには「組織の目的」という避けては通れない大きなテーマがあります。
そのテーマに取り組むためには、いろんな人の力・能力が必要で、それができると見込まれた人が集まっている。
わかりきったことかもしれませんが、忘れている/考えたこともない人によく出会います。

礼節を守ること

働きやすい環境をつくるための基本的なことです。
日本人は礼節があると思っていらっしゃいますか?
私はそうでもないという印象を持っています。
たとえば、こんなことは多くの企業で起きています。

「この案件は本来Aさんに報告すべきことなんだけど、Aさんって感じ悪いからBさんに報告してBさんからAさんに伝えてもらっています。」
(AさんはBさんから報告を受ける度に、気分害するとは思わないのですか?)
「入社した頃は元気に会う人みんなに挨拶してましたが、今は黙ってフロアに入って黙って席に座ります。」
(あなたのその様子を周りの人はどんなふうに見ていると思いますか?)
「新人の子たちが新人研修終えて元気に出社してきても、あんまり挨拶返さないんですよね、うちの部署。」
(それは、その新人を歓迎していないということですか?)

他にもまだまだあります。
ちょっとしたことなんですが、人の気持ちを落ち込ませたり仕事への意欲をそいでしまうと思いませんか?
礼儀正しさが生き残りの最強戦略だという説もでてきていますので、共に働く人たちを大事にする気持ちの表れとして礼節を見直してみてください。
挨拶を徹底して変えることでクレームが減ったり顧客満足度がアップしたという事例もあります。

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組織への働きかけ

エンゲイジメントを高めるには、個人レベルの取り組みだけでは不十分です。
実はエンゲイジメントに限らず、新しい取り組みを定着させるには「個人」「組織」両方の視点から働きかける必要があります。
この組織への働きかけを「組織開発」と呼ぶことがあります。
具体的にどんな方法があるのでしょうか?代表的なものを次にあげます。

感受性訓練

ものすごく曖昧とした表現ですが、要は組織で働く人達が自分の行動が他者とどのような関係を持っているか、他者の行動から何を感じて学ぶかという感受性を高めるものです。仕事に対する生産的な態度を育み、職場での人間関係をよりよいものにし、人と組織を有機的に結びつける効果があるとされていますが、「感情」をベースにすることやファシリテーターの質によって大きく内容が変わることなどが原因で日本では下火に。

コーチング/ファシリテーション

この2つを組織開発の方法として挙げるべきかどうか迷ったのですが、wikipediaで組織開発を検索すると記載があったので含めておきます。私見を言いますとコーチングは組織開発の手法としては弱く、ファシリテーション単体では効果が弱いと考えています。ただどちらの技術も組織開発を進めていく際にはリーダーに求められるものです。

フィードバック

フィードバックは行動による結果に注目して行動を修正し、成長を促す情報を伝えるスキルです。以前から一部のコーチが指導の中に取り入れていましたが、「モチベーションを刺激する」「自発的な行動を促す」「育成が早い」「小さく始められる」といったメリットがあることや1on1ミーティングへの関心の高まりと共に今注目を浴びています。フィードバックのためのスキルを習得する必要がありますが、組織全体で取り組めば個人と組織全体が確実に変わります。

プロセス・コンサルティング

チームや特定の仕事に対する診断を実施し業務上のプロセスに関する問題解決を行います。外部コンサルタントが組織に入ることが多く、コンサルタントは問題提起を行いチームマネジャーやチームメンバーと共に考え解決を支援します。 プロセスを共にすることで、問題解決のノウハウをチームに定着させます。

チーム・ビルディング

チームのメンバー同士でチームの役割や目標を共有し、良い関係性を築くことで協働しやすい環境をつくる取り組みをいいます。目標を共有するだけで済ませることもできますが、プロセス・コンサルティングの手法を組み合わせることでより実践的な効果が期待できます。

アプリシエイティブ・インクワイリー(Appreciative Inquiry)

ほとんどの組織開発の手法が「問題」を見つけ、問題を解決することで人と組織の発展を図るという立場なのに比べて、アプリシエイティブ・インクワイリーは問題よりも「人や組織の強み」に焦点をあてて成長を遂げようとします。GEをはじめとする欧米の数々の企業が成果をあげていることから注目されています。

組織開発については、以前ブログで解説しています。ご興味があれば、ご覧ください。
「組織開発について」クリックすると、ブログに飛びます。

まとめ

  • エンゲイジメントとは、仕事や組織に対して長期的にポジティブで充実した心理状態で取り組むこと
  • エンゲイジメントを評価する基準が定まっていないことが問題
  • エンゲイジメントを高めるには、個人と組織への働きかけが必要

 

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